港湾連合の倉庫は、夜になると静まり返る。
潮風と機械油の匂い。
人の気配はあるが、緊張はない。
彼らは、まだ“勝った側”のつもりでいた。
その倉庫に――
鳴海 廻は、たった一人で入っていった。
武器はない。
仲間もいない。
あるのは、ポケットの中のスマホだけ。
「……誰だ?」
中から、声が飛ぶ。
数人の男が現れ、すぐに廻を囲んだ。
「迷子か?」
「度胸あるな、ガキ」
廻は、軽く手を上げて笑った。
「あー……よかった。
ちゃんと全員、集まってくれたみたいですね」
男たちが、顔を見合わせる。
「は?」
廻は、倉庫の奥――
幹部がいるであろう方向を見て、大きな声を出した。
「“例の計画”、この人数で進める気なんですね!」
空気が、一瞬で変わった。
「……何の話だ」
「おい、誰に聞いた?」
「待て。なんでコイツが知ってる」
疑念が、波紋のように広がる。
廻は、その中心で、平然と続けた。
「裏切り者がいるって話、もう隠さなくていいですよ。
ほら……」
廻の視線が、幹部の背後に立つ男へ、一瞬だけ向く。
それだけで十分だった。
「お前……?」
「違う、俺じゃねぇ!」
「黙れ! じゃあ誰だ!」
倉庫内が、騒然とする。
その刹那――
バンッ
照明が、一斉に落ちた。
闇。
完全な暗闇。
「な、なんだ!?」
「電源だ! 電源が――」
次の瞬間。
鈍い音が、闇の中で弾けた。
骨と骨がぶつかる音。
空気を裂く音。
そして――
ジャラッ……
重たい金属音。
誰かが、倒れる。
「ぐっ――!」
声にならない悲鳴。
説明はいらなかった。
鉄平だった。
闇の中で、迷いはない。
敵が混乱し、疑い合い、立ち位置を失った一瞬。
その“隙”だけを、正確に叩く。
数秒後。
最後の男が、床に崩れ落ちた。
照明が、再び点く。
そこに立っていたのは――
鳴海 廻と、久我 鉄平。
二人だけだった。
廻は、倒れた男たちを見回し、静かに言った。
「……嘘で止めて、拳で終わらせる」
鉄平は、肩をすくめる。
「悪くねぇ」
ジャラッ……
チェーンが鳴る。
それは、戦闘の終わりの合図だった。
だが同時に――
この街に、新しいやり方が刻まれた瞬間でもあった。